ダマスクローズ精油を吸引した際に起こる、成人男性を対象とした心理的変化の観察実験

ダマスクローズ精油を吸引した際に起こる、

成人男性を対象とした心理的変化の観察実験

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科研究協力員 今井通子




概要

 健康増進などを目的に幅広く用いられているアロマテラピーは、植物由来の芳香物質である精油を用いる。そして、アロマテラピーは作用には、ストレス軽減が期待され、香りの嗅覚刺激は、眼窩前頭前野、扁桃体、視床下部へと伝わり1.(Rolls E. T et al. 2010)、記憶や情動に働きかけることが知られている。

そのほか、アロマセラピーには一般的にもリラクセーション効果があることが幅広く認知されています。自律神経の働きを軸に生理学的指標および不安尺度などの心理学的指標で確認されている。 2.(吉田聡子 et al. 2000) そこで、本実験では、ダマスクローズ精油の吸入が、人体に及ぼす影響を自律神経と心理面の両側面から検討した。

2023年の成人女性21名を被験者とした、ダマスクローズ精油を吸引した際に起こる、心理的変化の観察実験では、ダマスクローズ精油20分吸引により、状態不安に有意差があることが示唆さされた。そのため、今回の研究では、成人男性を被験者として、男女間での差があるかを評価する。影響評価の指標として感情プロフィール検査(POMS2)及びSTAI:State-Trait Anxiety Inventory(状態‐特性不安尺度)を用いた。その結果、POMS2では[怒り・敵意][混乱・当惑][抑うつ・落ち込み][疲労・無気力][緊張・不安][活気・活力][総合ネガティブ情動]は、t検定において有意差が観察された。一方、STAIでは[状態不安]にt検定に置いて有意差が観察された。


方法

ローズ精油の匂いを嗅いだ際に起こる、生理反応・心理的変化を調べるため、下記の2つの心理検査を行った。


1.STAI :State-Trait Anxiety Inventory (状態・特性不安検査)

2.POMS® 2 日本語版 全項目版(Profile of Mood States 2nd Edition)


実験器具

ロート酸素ポンプ機(流量は流量計を⽤いて2.0L / minとした)コントロールとして、98%プロピレングリコールとした。ローズ精油(ダマスクローズ)を溶媒(98%プロピレングリコール)使用し、12%希釈 とした。

1)K. Shinohara, H. Doi, C. Kumagai, E. Sawano, and W. Tarumi:“Effects of essential oil exposure on salivary estrogen concentration in perimenopausal women,”、 Neuroendocrinol. Lett.,、vol.37、no. 8、2016、pp. 567–572


結果

図表-1 ダマスクローズ精油を吸引した際に起こる、POMS2結果のt-検定結果

被験者数:17名    


POMS2


STAI

図表-2ダマスクローズ精油を吸引した際に観察された、STAIのT得点 

被験者数:17名



考察

ダマスクローズ吸引を20分間行った際に起こる心理的変化として、POMS2の結果から、特にTA(緊張-不安)の有意差がP<0.001であり、TMD(総合的なネガティブの情動)は、P<0.001。ダマスクローズの曝露を行うことにより、不安などのネガティブな情動の変化を平常な情動に導く作用があることがわかった。さらに、女性を被験者として、21名の同じ内容の実験を実施した際には見られなかった、(怒り―敵意)の感情にもP<0.01の有意差が見られた。男性が持つ怒りの情動を、ローズの香りによって抑える作用が増大したと推察できる。ローズオイルは、過去の研究により香りを嗅ぐことでβ-エンドルフィンが分泌されることが分かっている(国立研究開発法人科学技術振興機構 et al. 2013)。さらに、ローズの香りを嗅ぐことで、脳からオキシトシンが分泌されることが分かっている(MENARD et al.2009)。これらのホルモンが分泌されることにより、不安の低減と、活力の増大が結果として現れていると考えられる。


結論

ダマスクローズ精油を20分曝露することにより、成人男性の状態不安に高い有意差があることが分かった。

さらに、男性が持つ怒りの情動を、抑える作用も認められた。その結果、先行研究である成人女性を

対象にした結果と、大きな相違はないが、女性の感情変化のPOMS項目が6項目に対して、男性の感情変化の

POMS項目が7項目あることから、男性への作用が高いと示唆される。